
2020年は新型コロナウイルスの脅威に翻弄された1年だった。その影響で多くのことが制限される中、アビスパ福岡の公式戦全42試合を取材することができたのは、医療従事者の方たちをはじめ、エッセンシャルワーカーの方たち、Jリーグに関わるすべての方たち、そして私たちの目に見えないところで奮闘してくださった方々、すべての方たちのおかげであり、この場を借りてお礼を申し上げたい。
そしてコロナは、それぞれの人の心の持ちようや、あり方をあぶり出した。いい意味で感じられたのは、長谷部茂利監督をはじめとするアビスパのチームとしての態度だった。取材現場では選手との接触は一切禁じられ、取材はzoomを通して行われたのだが、どんな時でも対戦相手へのリスペクトを忘れずに、ふてくされず、言い訳もせず、メディアと正面から向き合って、自分の言葉で話してくれた。
また、アビスパの場合、原則として練習見学はできず、zoomによる練習後の取材日も限定されていたため、ついつい取材時間が長くなることが多かったが、選手たちは練習終了直後で疲労がたまっているにも拘わらず、時間を気にすることなく、どんな質問に対しても最後まで付き合ってくれた。そんな場所を提供してくれたクラブの、そしてチームの真摯な態度がJ1昇格の要因のひとつだったと私は思っている。
その一方で、こんな出来事もあった。
通常、ZOOMによる取材は共同会見の形で行われ、そこでのコメントは、質問者を問わず誰でもが自由に使えることが原則だが、書き手というものは人とは違うものを書きたいもので、多少に拘わらず何らかの質問をするのが一般的だ。たとえ、質問をしなかった場合でも、コメントを引用することはあっても、他者が引き出したコメントをまるまる利用して記事にすることは、ほとんどない。
ところが、リーグ終盤になって、普段は取材に来ない記者がzoomに入室し、ビデオもマイクもつなげず、一言も発せずに、他者が引き出したコメントをまるまる使用して、あたかも自分が現場で取材したかのような記事を書いた。まさか専門誌が「こたつ記事」(取材現場に行かずに他者が得た情報をもとに記事を書くこと)を書くとは思ってもおらず、少なからずショックを受けた。
しかしながら冷静になって考えてみれば、その情報が正しければ、誰が、どのような形で記事を書こうが、読み手にはまったく問題はない。「ショックを受けた」などというのは自分の勝手な言い分であって、それは放漫な態度だとさえ言える。問題の所在は、継続的に取材をしながら、しかも取材現場にいながら、その記者が書いたものと同じものしか書けない自分にあるのであって、情けないのは自分の方だと気づいた。
そして、今から20年ほど前に、取材に同行してもらったカメラマンの言葉を思い出した。
「現場にいるからこその情報を発信できないのであれば、自宅でTVを見ているのと変わりないですよね。取材許可をもらって現場にいる以上、僕は現場でしか分からないことをカメラを使って表現したいんです」
私よりも一回り以上も若いカメラマンだったが、その言葉に強く衝撃を受けた。
さて、休む間もなく、あと2週間もすればアビスパの2021シーズンが始まる。私にとってはアビスパの取材を始めてから23年目のシーズンになる。自分でも気が付かないうちに慣れてしまったところもあるだろう。知らないうちに放漫な態度を取っていることもあるかもしれない。改めて、アビスパを追いかけようと思い立った日の自分と向き合い、アビスパと、アビスパに関わるすべての人たちにとって大切なことは何かを考えて活動していきたいと思う。
私の平均余命は20年余り。これだけあれば、まだまだやれることはきっとある。
[中倉一志=文・写真]
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