
[中倉一志=文・写真]
アウェイゲームの敗戦はいつもへこむ。栃木戦後も、正直、気持ちは沈んでいた。けれど「何度転んだのかが問題なのではない。何度立ち上がるかが問題なのだ」というマリヤン・プシュニク元監督の名句を思い出しながら、久しぶりに再会する友人と連れ立って宇都宮の街へ。サポーターから事前に聞いていた井原監督のお兄さんがやっているという「寿庵」へと足を運ぶ。終わったことを引きずっても何も生まれない。考えるのは明日からのこと。そのために気持ちをリセットすることも必要だ。宇都宮駅東口に広がる繁華街を、お兄さんたちの甘いささやきをお断りしながら歩いて5分程、目当ての「寿庵」に到着。なかなかの店構えだ。聞くところによれば、井原監督のお兄さんの店というのは知られているらしい。おそらく栃木サポもいるだろうが、試合が終われば、みんな地元を愛するサッカー仲間。応援するチームは違っても、サッカー仲間として飲むのも悪くない。そう思いながら暖簾をくぐる。すると奇跡の出会いが待っていた。
そこで飲んでいたのは、試合前に声をかけていただいた王国民(注1)サポーターのみなさん10数人。さらに我々の後からアビスパサポーターが2人店に入って来た。事前に待ち合わせをしたわけでもないのに、気が付けばアビスパサポーターで貸し切り状態に。ここは宇都宮。中洲でも、大名でも、春吉でもない。予約を入れていたわけでもない。なのにアビサポだけで埋まる店内。これはもうサッカーの神様の粋な計らいとしか言いようがない。

盛り上がらないわけがない。アビスパの話はもちろん、王国民の話、サポートのあり方、INSIDE FUKUOKAの話、取材の裏話等々、アビスパとアビスパにまつわる話は尽きることがなく、偶然居合わせた者同士が、サッカーとアビスパという共通言語で、何年も前からの知り合いのように打ち解ける。これも自分たちの街にサッカークラブがあればこそだ。
そして、そのつながりの輪を広げてくれた田村ゆかりさんにも感謝。Jリーグは、サッカーがなければ知り合えなかったであろう人たちとのつながりを作ってくれたが、アビスパをサポートしてくれる王国民のみなさんは、田村ゆかりさんという存在がなければ、おそらく出会うことはできなかった人たち。きっかけは違っても、自分にとって大切なものを守り、支える想いは同じ。熱い思いを語り合う宴は尽きることなく続く。
気が付けば、いつの間にか井原監督のお兄さんも巻き込んでの宴は深夜2時。スタジアムでの再会を約束して別れた。そして、ホテルに向かう夜道でふと考えた。
ピッチとスタンド。ステージと観客席。そこには明確な区別がある。やれることも、やるべきことも違っている。けれども想いはひとつ。その場所で最高のパフォーマンスを作り出すために、その場に集まった全員がひとつになって力を尽くすこと。そして、よりよいものを求めて次の機会に向かう。今度、田村ゆかりさんのライブに行ってみよう。きっとスタジアムと同じ熱い空気が溢れているはずだ。
注1)王国民とは福岡出身の声優界のレジェンド田村ゆかりさんが建国した「ゆかり王国」の国民(ファン)のこと。昨年、田村ゆかりさんが呼びかけてくれたことで、多くの王国民がアビスパサポーターとして、ともに戦ってくれている。栃木戦には40人ほどの王国民がゴール裏に集結した。
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